更新日:2025年7月20日
前々回の「熱中症対策の義務化(5月20日記事参照)」、前回の「ストレスチェックの全事業場義務化(6月20日記事参照)」のトピックスに続き、今回は高年齢労働者の労働災害防止対策に焦点を当ててお届けします。
今回の改正は「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が2025年5月14日に第217回国会で成立し、公布されたものです。この改正は、法律本体である労働安全衛生法や作業環境測定法を対象とし、これらの法律に基づく具体的な運用ルールや罰則規定を定める「労働安全衛生規則」(政令・省令)が今後整備されていく構成になっています。
5月20日の記事でご紹介した「熱中症対策の罰則付き義務化」は、労働安全衛生規則による改正で具体的ルールが定められたものでした。6月20日の記事でお伝えした「ストレスチェックの全事業場義務化」は、労働安全衛生法という法律本体の改正によって実施が義務付けられたものです。
今回の高年齢労働者の労災防止対策も、同じく法律本体の改正により、事業者の努力義務として明文化されたものです。
このように、労働安全衛生法は大枠の法律であり、その下に労働安全衛生規則が位置づけられ、具体的な実務ルールや罰則が規定されています。
今回の法改正は、法律と規則の両面にまたがる包括的な見直しとなっています。
法改正の全体像と今回の位置づけ
今回の改正では、労働安全衛生法および作業環境測定法に関して、以下の6つのポイントが示されました。
- 個人事業者等の安全衛生対策の推進
- 職場のメンタルヘルス対策の推進
- 化学物質による健康障害防止対策等の推進
- 機械等による労働災害防止の促進等
- 高年齢労働者の労働災害防止の推進(本記事のテーマ)
- 治療と仕事の両立支援の推進
なぜ今、高年齢労働者への配慮が求められているのか
労働災害による死傷者のうち、高年齢労働者(60歳以上)は年々増加し、全体の約3割~4割を占めるようになっています。特に転倒、墜落・転落、腰痛などが多く、高年齢者特有の体力や反応速度の変化が災害の一因と分析されています。
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引用:厚生労働省 高年齢労働者の労働災害防止対策について(P.11 P.16 P.17 P.18 参照)
新たな努力義務の内容
事業者には以下の配慮が努力義務として求められます。
- 作業環境の整備(段差解消、滑り防止、照明の強化など)
- 身体的負荷の少ない作業手順の導入
- 適切な休憩時間や水分補給の管理
- 健康診断や体力測定に基づく業務配置
- 動画や図を用いた分かりやすい安全教育の実施
高年齢労働者の災害リスクと主な対策 など
引用:厚生労働省 高年齢労働者の労働災害防止対策について(P.19 参照)
参考:エイジフレンドリーガイドラインの5つの柱
厚生労働省が公開するガイドラインでは、高年齢労働者の就業環境改善のために以下の5つの視点での取り組みを推奨しています。
エイジフレンドリーとは「高齢者の特性を考慮した」を意味します。
- 安全衛生管理体制の整備
- 作業環境・作業方法の改善
- 健康状態の把握と対応
- 教育・訓練の充実
- 高年齢者の意見の把握と反映
参考:補助制度にも少し触れておきましょう
エイジフレンドリーな職場づくりを進める上で、厚生労働省では「エイジフレンドリー補助金」が用意されています。
高年齢労働者の労働災害の防止対策や、転倒、腰痛予防のための専門家による運動指導、労働者の健康保持促進のための取り組みに対して、一定の要件を満たした際に補助されます。
(今回はご参考までの情報になります)
- 対象例:作業環境の整備、運動指導、安全教育等
- 補助率:1/2~3/4(条件により異なる)
- 上限額:100万円程度
※本補助金は公募制で、年度により受付時期や条件が異なります。
まとめ
高年齢労働者の安全対策は、今後ますます重要なテーマになってきます。今回の法改正は努力義務にとどまりますが、労災防止の観点からも、今のうちからの整備や教育が強く望まれます。
また、こうした取り組みは、安心・安全な職場環境づくりにつながり、結果的に人材の定着や採用力の向上にも寄与します。
高年齢者に限らず、すべての労働者にとって働きやすい環境を整えることが、これからの企業に求められる姿勢といえるでしょう。
各企業は、実施に向けた早めの準備・対応が求められます。
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